ショパンの《バラード第4番 Op.52》は、ショパンの作品の中でも最高傑作とされる事が多い作品の一つです。
この記事では、《バラード第4番 Op.52》がどのような作品なのかを簡単に紹介したうえで、実際に筆者が演奏するときに意識していることや難しいと感じる箇所、さらにおすすめのピアニストについて紹介します。
曲の概要
作曲・出版年が1842年~1843年であり、ショパンが32歳~33歳とショパンの円熟期に作曲された作品となります。
演奏時間は約12分です。
ショパンは39歳で亡くなったため結果的にこの4番がバラードの最後の作品であり、技術面・音楽面ともに非常に充実した作品です。
バラード第4番の難易度
《バラード第4番》は、ショパン作品の中でも最難関クラスの一曲だと思います。
コーダだけでなく、重音、声部の弾き分け、長い曲全体の構成、テンポコントロールなど、幅広い技術が必要です。
ただし、速い音符を弾けるだけでは十分ではなく、各声部を歌わせながら曲全体を一つの流れとしてまとめることが、この曲の本当の難しさだと感じます。
演奏のポイント
筆者が演奏する上で意識していることを紹介します。
(あくまで筆者の解釈なので、このようにすべきという意味ではないです。)
本記事で掲載した楽譜は全てIMSLPに掲載された楽譜を基に筆者が打ち込みソフトで作成したものです。
ソフトの都合などにより、実際の楽譜と異なる場合があります。
また、文章中の音の表記はC・C#・C♭といった形にします。
序奏
霧の中から日光が柔らかく差し込んでいる中で、だんだんと薄いベールのような霧が晴れていく印象を持ちます。

右手は高音部を少し重く弾いて、低音部は撫でるようなイメージで弾くとちょうどいいバランスになると思います。
左手の音が始まったときは、左手≧右手くらいの大きさで弾き始めて、右手はだんだん膨らんでいくような、左手はだんだん消え入るような形で筆者は弾きます。

第一主題
8~37小節
大まかに言うと2回同じフレーズが続きますが、2回目の方は1回目よりも装飾されるため、1回目と2回目で差をつけて演奏するのがいいと思います。
また、1つのフレーズにも細かく分割すると、さらに複数のフレーズになるため、これらもそれぞれ同じようには弾かないようにするのが重要です。
フレーズ内で移調を何度もするところは、不安定な感情を呼び起こします。
調の違いも意識できるといいと思います。
38~45小節
ここは夢の中にいるような印象を持つ部分です。
ここも2回似たフレーズが続き、同じような演奏にならないように意識します。
筆者は43小節目になったときだけソフトペダルを踏んで変化を意識します。

46~57小節
ここまでで一つのピークを迎える場面だと思います。
だんだんと感情を高ぶらせていく場面ですが、すぐにピークに行かないようコントロールも求められます。
58~71小節
個人的に難所に入ります。
67小節までは、右手で主旋律と対旋律を同時に弾かなくてはならず、主旋律を響かせつつ対旋律をさりげなく鳴らすのを意識します。
この部分がとても難しいです。
それぞれのパートのみでの練習をし、指と音で覚えるのがいいと思います。
68小節からはだんだんと感情を高ぶらせ71小節の始めでピークを迎えます。
この部分は速度が上がりがちですが、楽譜では特にそういった指示はなく、あまり速くなりすぎないようにコントロールを心がけます。
むしろ70小節ではritenutoとされています。
72~79小節
75小節までは結構弾きにくいパッセージです。
特に74小節の右手はかなり弾きにくいです。
72小節になってすぐに加速しそうになりがちですが、楽譜の指示自体は74小節の途中からなので、それまではそんなに加速しないでいいかと思います。
80~83小節
第一主題から第二主題へのつなぎの部分かと思います。
この部分は楽譜によって異なりますが、a tempoだったりin tempoだったりするので、筆者は遅くなりすぎずサラッと弾くようにしています。
第二主題
84~99小節
ここからdolceになるため、歌うように感情を込めた演奏がいいと思います。
以下の91~92小節の赤枠を筆者は意識しながら弾きます。

100~107小節
ここから元のテンポに戻りますが、ここも結構弾きにくいです。
104小節について筆者が知る限り、エキエル版の楽譜だけ左手が右手とユニゾンになっており、難しいです。
他の楽譜だと100小節の左手と同じような形になっています。
108~119小節
右手の6度で細かく動く和音が難しいです。
また、112小節と114小節の左手のトリルも、個人的に弾きにくいです。(特に装飾音付きの方)
115~119小節まで加速しそうになりますが、感情をコントロールして弾くのがいいと思います。
119~128小節
122~123小節が弾きにくいと思います。
124小節についても筆者が知る限り、エキエル版の右手の後半の音が他の楽譜と異なります。
不安定ながら129小節の移調に向かっていくイメージです。
129~134小節
序奏が移調した形で現れます。
ここは再現部へのつなぎの部分に感じるので、サラッと弾くのがいいと思います。
134小節の細かい音符は夢の中にいるようなイメージで弾きます。
135~145小節
バッハっぽい感じのパートに思います。
ペダルはあまり踏まないほうがキレイに聴こえます。
夢から醒めるかどうかのところで、頭の中がグラグラしているようなイメージです。
再現部(第一主題)
146~168小節
146小節から第一主題に戻ります。
152小節から細かい不規則な連符によって主題が再現されます。
周りが暗くなって不気味な音の風が吹き回るようなイメージを持ちます。

160から161小節で一度風が穏やかになるイメージがあるので、この部分は柔らかく弾きます。

しかし、また風の勢いが増していき、頂点まで行ったら一気に音が半音階で下っていきます。
この半音階の部分を聴くと、風に運ばれてどこかへ連れて行かれるようなイメージを筆者は持ちます。
再現部(第二主題)
169~180小節
一番感動的な場面に入ります。
風に運ばれた先は朝日が昇り始める海辺だったというイメージです。
左手は波のように動きます。

174小節までは速くなりすぎたり大きくなりすぎたりしないよう、抑え気味に弾くのがいいと思います。
177小節からはどんどん感情を高めていき、180小節で最高潮を迎えるようにします。

181~190小節
181小節からは一度落ち着きを取り戻し、波のように音を強弱させます。
185小節から187小節にかけては、段々と音を弱めていきます。
そして188小節からは、半音階で上がっていく左手の音を聴きながら段々と音を強めていきます。
191~210小節
191小節はエチュードの『大洋』のような音型です。
まばゆい光に包まれていくようなイメージを持ちます。
しかし、195小節から再び不気味な風が吹いてくる感覚を持ちます。
198小節からの連続和音はどんどん緊迫した形になり、個人的にかなり難しい箇所です。
ゆっくりの練習で和音を覚えるようにします。
203小節から再び穏やかな和音になります。
しかし、これはこの後のコーダ、つまり嵐の前の静けさのようなものかと思います。
コーダ
これまでに所々で吹いてきた不気味な風が嵐となって襲いかかるイメージです。
今までの伏線が一気に襲いかかってきます。

211~214小節
右手は高音部と低音部を分解して練習し、それぞれどのように聴こえるかを覚えてから合わせた方が良いと思います。
特に212小節と214小節の右手の後半部分が難しいです。
215~222小節
この曲の最難関ポイントとして挙げられる事が多い3度の半音階パートがあります。

筆者は指使いについて、上記それぞれの赤枠をひとまとまりとして分割して覚えました。
例えば、1つ目の赤枠について以下の動きの指使いにしました。
- 1つ目の和音を3と1の指で弾く
- そのまま手首を手前に引く感覚で2つ目の和音を4と2で弾く
- そのまま5と1の指を下ろして3つ目の和音を弾く
219小節からは左手がメインになるので、はっきりとした音にします。
223~226小節
ここも難しい箇所です。
悪魔の笑い声のようなイメージを筆者は持ちます。
224小節と226小節の最初の音は、カーンと鳴るような感じで弾くと良いと思います。
226~239小節
ここからは最後までaccelerandoですが、序盤で最高速にならないようコントロールしながら弾きます。
226~230小節にかけては、段々と心拍数が上がっていくイメージです。
また、左手のバスの音に重さを持たせるようにすると良いと思います。
233小節で最高音に行ったら少しタメて、その後加速しながら落ちていくような感覚で弾き、最後の和音で締めくくります。
おすすめのピアニスト
バラード第4番を演奏したピアニストでおすすめの方を紹介します。
クリスティアン・ツィマーマン
全体として緻密な演奏でありつつ、繊細な部分から感情的な部分まで完璧に弾きこなします。
コーダはサラリと弾きつつ、感情にも響く演奏をします。
勢いのついている部分でも、緻密な演奏を感じ取ることができます。
第一におすすめしたいピアニストです。
アレクセイ・スルタノフ
再現部に入るまではゆったりとした演奏です。
ゆったりとした演奏だからこそ、この曲の構築された響きがより沁みるように聴こえます。
再現部に入ってからはテンポアップし、175~176小節の部分はどんどん勢いが増していき、聴いていると胸がグーッとなります。
そして、その勢いがさらに増していくと180小節で感情が爆発します。
また、この180小節を遅めに弾くことで、感動的な響きがより長く聴こえるところも良いです。
おわりに
《バラード第4番》は、ショパン作品の中でもトップクラスの難易度とされることが多い曲です。
しかし、この曲の難しさは速いパッセージや重音を弾くことだけではないと思います。
それぞれの声部をどう歌わせるか、どこで感情を高め、どこで抑えるか、そして約12分間の曲をどのように一つの物語として作るか。
技術的に音を並べられるようになってからも、考えることが尽きない作品です。
聴いている人の感情を動かせる演奏を目指しながら、筆者自身も一生を通じて弾き続けたいレパートリーの一つです。

コメント